絵を描くのにセンスや才能は必要ない。絵画教室「アトリエもりのさと」。

芸術の秋がやってきました。いろんな芸術がありますが、絵画を連想する人も多いはず。美しい風景画も迫力のある人物画も見る人を魅了してくれますよね。身近な人が描くイラストや絵にもほっこりしますし、何でそんなに上手に描けるんだろうと思うこともしばしば。やっぱり絵を描くには才能やセンスが必要なのかと思っていましたが、そんなことはありませんでした。厚木の絵画教室「アトリエもりのさと」の講師で作家でもある小川さんにお話しを聞きました。

アトリエもりのさと 講師
小川 晴輝 Haruki Ogawa

厚木市出身。2012年、東京造形大学美術科絵画専攻卒業。2014年、東京造形大学大学院造形研究修士課程美術研究領域修了。卒業後は個展やグループ展など幅広く作家活動を行う。2016年、絵画教室「アトリエもりのさと」をオープン。”あなたのための絵画教室”をコンセプトに表現の楽しさを伝えている。

 


「反乱するイメージ」2013

 

だれでも絵は描けるようになる。個性を尊重した絵画教室。

——まずはじめに、絵画教室について聞かせてください。具体的にはどんなことをされているんですか?

小川さん:絵画の何でも屋ですね。岩絵具という特殊な絵の具があるんですが、それ以外のことであれば指導できます。”あなたのための絵画教室”をコンセプトに、1人1人に合わせた個別指導で絵を描いていきます。その人の表現がより豊かになるように指導させてもらっています。

——個別指導で絵が描けるようになるんですね。課題を一つずつこなしていていくのかと思っていました。

小川さん:生徒さんによってはそうですね。本人の希望に合わせますがこちらから提示することもありますし、デッサンだと訓練的な意味合いがすごく強いのでステップアップしながら描いていきます。すでに作家活動をしている方が作品の講評をしてほしいと来られることもありますし、ほんとに生徒さんに合わせた指導をしています。

——幅広くいろんな方が通われているんですね。

小川さん:中学生だと美術系の高校受験対策で来られる方もいらっしゃいますね。絵画教室なので受験対策をメインにしている訳ではないですが、高校受験レベルであれば指導もできます。

——厚木の生徒さんが多いですか?

小川さん:厚木の生徒さんもいますし、伊勢原や海老名の近隣から来ていただける方も多いですね。

——生徒さんの作品を見せていただいてもいいですか。

小川さん:大丈夫ですよ。

 

 

小川さん:ちょうど今、教室に置いてある生徒さんの作品があまりないのですが、こちらのうさぎの絵を描いた生徒さんは教室に通い始めてからデッサンをスタートして、二年半ほど経ちますがすごく上達しました。最近は、その横にある人物のクロッキーなどを描いています。

——2年半でここまで上達するんですね! みなさんはどれぐらいの頻度で教室に通われるんですか?

小川さん:アトリエもりのさとは月謝制ではないので、週1回の方もいれば月に数回から1回の方など様々です。その人のリズムに合わせて通ってもらっていますね。

——ちなみにあちらのうさぎの絵を描かれた方は月にどれほど通われていたんですか?

小川さん:月3回ぐらいですね。やっぱり、継続できる人はすごく上達します。一番のコツは続けられることなので。実は絵を描くのによく言われるようなセンスや才能は基本的に必要ないんです。その要素が影響するのはもっと先の表現をするときなんですよね。このことがよくわかる有名な本があるのでちょっと紹介しますね。

 

 

ベティ エドワーズ,『脳の右側で描け』,エルテ出版,2002/2/1

 

小川さん:『脳の右側で描け』という本なのですが、著者が6日間のワークショップを開いて絵の描き方を教えていくんです。左の絵がワークショップ前で右の絵がワークショップ後です。6日間でこんなに変わるんですよね。

——えっ、6日間でこんなに変わるんですか⁈

小川さん:ただし、そこまで短期間で身につけるには、かなり厳密な訓練が必要になります。あと、6日間で極端に技術が上がっている訳ではなくて、描くときの意識を変化させてるんです。普段人はモノをしっかり見ているようで見ていなくて、例えば絵が下手な人の顔でよくあるのがこういう絵ですね。

 

 

——あー、自分も人の顔を描くといつも左に近い感じになってしまいます……。

小川さん:人の顔の基準の比率って目が縦幅の2分の1なんですよ。でも、絵がうまくない人は絶対に目から上の幅が短くなってしまいます。顔をイメージした時に、情報量が多いのは目と鼻と口です。特に目の情報量が大きいので、漠然と顔をイメージして描こうとすると、このように目を大きく描いてしまうんです。本来あるはずのおでこの縦幅を情報として省略してしまうので、どうしても小さくなってしまうんですね。子どもの絵も同じで、家よりも自分の方が大きくなってしまうのは、頭の中の世界では自分や人の意識が大きいからなんです。

——面白いです、とても勉強になります (笑) 。

小川さん:なので、教室でも比率を客観的に捉える重要性を伝えています。最初は描く力をつけるというよりも、イメージと実物を見比べて、実際に測ったり観察したりして”ずれ”をどのくらい見つけられるかに重きを置いています。これが、見たままのモノを描く右脳的な処理にあたります。

——『脳の右側で描け』というのはそういうことだったんですね。

小川さん:もう一つよく生徒さんに話すことがありまして……ここに同じ鉛筆が2本ありますが、これは同じですよね?

 

 

——同じ、だと思います……。

小川さん:この鉛筆は違いますよね?と言われたらどうでしょう。

——違う、と言えるかもしれません…… (笑) 。

小川さん:同じと思う場合は鉛筆をグループ単位の左脳的な処理で見ていて、違うと思う場合はグループ化や記号化せずに別々のものと認識する右脳的な処理なんです。一つのモノとして認識することは割と観察に近いんですよね。傷や汚れの具体的な違いを比較して見ていって、一つのモノとして見ていくことで人はやっと本当のモノとして見ることが出来るんです。このように実際にモノを見ることは意外に難しいですが、視覚表現を知れば知るほど人間の目は全然あてにならないことを知れるんですよね。でも逆に、錯覚や思い違いがあるからこそ、ある種現実を超える豊かな表現ができることもあります。

——なるほど、観察することは難しいですけど、それを知っているだけで見え方が変わりますね。

小川さん:だから、才能やセンスというレベルの話ではないんです。モノを自然に描くことは実は基本的に誰にでもできます。

 

 

作家として絵を描き続ける理由。

——小川さんはいつから絵を?

小川さん:高校は小田原城北工業高校のデザイン科に通っていて、高校3年の三学期から美術予備校に入ったのがスタートです。

——高校生の時からデザインや絵を描くことに興味があったんですね。

小川さん:姉も同じ学校へ通っていたのもあって、デザイン科の学校へ進みました。その時はまだデザインと美術の違いも分かってはいなかったのですが、普通科の高校へ進学するよりも、絵を描くことが好きだったので、学べたらいいなと思っていましたね。

——高校をご卒業されてから美術系の大学へ進学されたと。

小川さん:八王子にある東京造形大学の美術科へ進学して、同大学院の修士課程を修了しました。

——大学院を修了してからは作家として活動されたんですよね

小川さん:そうですね、作家活動をずっとしていました。

——作家さんって絵を描いて個展に出展したり、描いた絵を販売されたりするのがメインの活動で合っていますか?

小川さん:そういうことですね。

——ご自身で個展の場所を見つけるところからがスタートになるんですか?

小川さん:広い意味ではそうですが、作家活動をするときにちょっと強引な説明になりますがアート系だと二つに分かれるんです。ギャラリーの形態が大きく分けて二種類あって、一つは一般的な貸画廊と言われる、会場を借りて自分で発表をする形です。極端に言えばお金があれば展示ができます。もう一つはあまり聞きなれないと思いますが、コマーシャルギャラリーという形態です。ギャラリーに所属する形で、展示の企画や販売をしてもらえます。私の場合は学生の頃からコマーシャルギャラリーに所属してまして、そこでずっと活動をしていました。

 


2010「Cutlog Art Fair」Bourse du commerce de Paris(フランス パリ)

 

——油絵や水彩画などいろいろありますが、小川さんはどういった作品を描かれているんですか?

小川さん:絵を形容するのが難しいのですが、抽象的で立体感や質感が強いもの、具象性が高めるとこんな感じです。鳥獣戯画をモチーフにした作品もあります。

 

 


「かくれんぼ。」2008

 

 

——こちらの絵は側面まで描かれているんですね。

小川さん:側面まで描くことが私の中では重要なんです。側面までアプローチする方はそれほど多くないのですが、絵画史とも深く絡んでいて、私の中では重要な仕事だと思っています。

——たしかに、側面まで描かれている作品は見たことがありません。他の作品にも特徴があるんですか?

小川さん:特に近年の作品の特徴としては、複数のキャンバスをつなげていて、素材は布、木、金属などを使用しています。また、その素材がそのまま見えるようにする処理をしています。

 

 


「Fusion X Ⅲ」2019

 


「Fusion X Ⅳ」2019

 

 

——ほんとに四つのキャンバスが繋がって出来ていますね。キャンバスを繋げることで表現が変わるんですか?

小川さん:”虚と実がお互いに行き来する関係性”が作品の共通のテーマとしてありまして、その関係性や境界線を自分で探っているんです。例えば、「実」はキャンバスや絵具、キャンバスに落ちる影など、実体や実際に起きていることの意味合いがあります。「虚」は描くことで平面に奥行きが出来るなどの虚構です。複数のキャンバスをつなげると、その間に線のような隙間(影)が出来ます。それを描かれた線のように見せるために、他の要素を描きます。そのような関係性を与えることで、どちらが「実」で、どちらが「虚」なのかという境界線を超えた新しい表現が出来るのだと考えています。

——意味が深いですね。ずっと作家さんに聞いてみたかったことなんですが、ゴッホの絵など世界中で評価されている作品のように、絵を評価する基準は明確にあるんですか?

小川さん:あるかないかで言えば明確にありますが、それを言語化して伝えるのは中々難しいですね。作品の本当の意味での完成度みたいな話になってしまいます。表面がしっかり描かれていれば良い訳ではなくて、作品の”言い切り”がしっかりしていることが大切です。「あなたはこの作品で何を表現したかったんですか」と聞かれた時に、一言で表すことができるか、作品を見て伝えられるか。料理に例えると、カレーを作ってルーまで入れたのに、途中でシチューにしようと思ってシチューを作り始める、でもやっぱり肉じゃが食べたいからそこから肉じゃがを作り出す……これ、絶対美味しくないと思うんです (笑) 。

——そのたとえ、とてもわかりやすいですね (笑) 。

小川さん:絵画に限らず彫刻やイラストにも共通するのは、プロは引き算で物事を考えていて、いらないものをできるだけ省いていき、必要な要素だけを絞ってそこで勝負しています。あれもしたいこれもしたいでは、客観的に見て何が伝えたいのかよくわからなくなってしまうので、広い意味で言い切りが大切です。

 

 

——小川さんにとって絵を描くこと、表現することはどんな意味を持っていますか?

小川さん:案外質問されないことなので新鮮ですね (笑) 。私は絵を描くことを人生の軸にしているので生きる意味と同じになってしまうんですが、シンプルに言うと描く理由と価値があるし、単純に知りたいからでしょうか。私の立体作品には”絵画を別のメディアからアプローチして研究する”という意味合いが強くあって、難しい話になってしまいますが、「絵画上で描かれる奥行きの要素を尊重した立体」として認識することが私は重要だと考えています。美術史や絵画史のなかで、案外その部分については抜け落ちていると感じていて、それを研究することは価値があると思っていますし続けている理由の一つですね。

——違う視点というのは、先ほど見せてもらった立体的な絵ですか?

小川さん:具体的に言うと側面ですね。現代でも絵画を側面まで描くことは珍しいので。絵画は基本的に平面で捉えて、正面から見ることが重要なんですよね。側面を存在しないものとして考えるアプローチが一般的ですが、側面も物体として見る=物として捉えるアプローチもあります。物とすると当然側面もありますので、私の場合はその中間の物として見え過ぎないところを探っています。

——ありがとうございます。最後に小川さんのこれからの目標を教えてください。

小川さん:絵画教室としては、もう少したくさんの方に来ていただけるようにしていきたいです。絵画教室、アトリエもりのさとではいろいろ取り組んでいますので、教室に足を運んでもらえる方が一人でも増えると嬉しいです。私自身の目標としては、作家活動をより活発にしていきたいですね。

 


「Roentgenpainting 54」2020

 


「Roentgenpainting 60」2020

 

ただいま教室では芸術の秋キャンペーンにつき10月末まで入会金が無料となっているそうです。
ご興味のある方はぜひ教室へお問い合わせください。

 

アトリエもりのさと

住所:神奈川県厚木市森の里2-28-15
TEL:080-5389-7722
授業時間:火曜・土曜・日曜 (午前)9:30~12:00 (午後)13:30~16:00
ホームページ:https://www.atelier-morinosato.com/
Facebook:https://www.facebook.com/atelier.morinosato/

Haruki Ogawa

ポートフォリオ:https://www.haruki-ogawa.com/
Facebook:https://ja-jp.facebook.com/ogawa.haruki.9
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